「川根の動物は、川根のお茶畑が守ってきた。」お世話になっているお茶農家さんの一言に興味を惹かれ、WilCoLaは、静岡県中部にある川根本町で、人と自然との共生の在り方を模索する活動を始めました。
川根本町は、3,000m級の山々が連なる南アルプスのお膝元にあります。長野県、山梨県、そして、静岡県をまたぐ山脈。南アルプスは険しさとアクセスの悪さから、氷河期からの希少な植物が残存しています。また、高山蝶やアカイシサンショウウオ、神の鳥と言われるライチョウなどが生息しています。
この自然豊かな南アルプスに水源をもち、長さ185km、流域面積1,280km2の大井川が川根の町を形作り、川根の茶畑を支えています。
川根本町のお茶産業の歴史は、江戸時代初期までさかのぼります。大井川と山に囲まれたお茶畑では昼夜の温度差が大きく、成長が遅れる分、養分を蓄えた茶葉となり、大井川から立ち上る霧は甘さをもたらします。
そして、約400年続くお茶産業は、川根の二次的自然(里山など人が自然と関わる中で管理・維持してきた自然)の形成とも密接に関わってきました。お茶のための薪炭林や、お茶畑に営巣する鳥類がいます。そして、アナグマやタヌキも確認されており、仔育てやコミュニケーションの場に使っているのでは、と考えて調査を進めています。
この川根本町は、生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)を目的とした南アルプスユネスコエコパークの一部になっています。さらに、川根本町も含めた静岡の伝統的な茶草場農法は、草地環境を生み出し、生物多様性保全に貢献していることが評価され、世界農業遺産に認定されています。
こうした豊かな自然の中で育まれたお茶産業ですが、近年、お茶の需要は減少し、後継者不足も相まって、放棄茶園が増加している傾向にあります。数百年の間、お茶畑を舞台にして繰り広げられてきた野生動物とお茶農家さんの暮らし、お茶産業を中心に形成されてきた川根の二次的自然、人と自然との関係を通して蓄積された自然に関する知識が、お茶産業の衰退とともに消えてしまうかもしれません。
そこで、WilCoLaは、野生動物と人との共生の在り方について、川根のお茶畑から学び、川根のお茶農家さん達を微力ながら応援していければと考えています。